日曜論壇/貸与制移行を中止すべし

これは当時,栃木県弁護士会の副会長という職務にあったために執筆・掲載されたものであり,私個人に執筆依頼がきた訳ではありません。またこのような執筆を依頼されたり,新聞に掲載されたということをアピールしたりするために掲載するものでもありません。あくまで私が,どういう価値観を持ち,どのような姿勢で弁護士業務に取り組んでいるかについて,ご理解をいただくために掲載するものです。
(掲載当時のままで、加筆・訂正はしておりません。)

 

2010年09月12日(日) 朝刊 総合1版004頁 全域
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日曜論壇/富岡規雄(とみおかのりお)/貸与制移行を中止すべし

今、法曹養成制度が危機にひんしている。

 

法曹(裁判官、検察官、弁護士)として働くためには、司法試験に合格するだけでなく、合格後に司法研修所で司法修習生として1年間の修習(研修)を受ける必要がある。この修習期間中は、修習に専念する義務が課されアルバイト等が禁止されている。当然、生活費をどうするかが問題となるが、これまでは給費制、つまり給料が出ていた。これで生活の心配をすることなく修習に専念できた。しかし本年11月からこれが貸与制、つまり国が金を貸し付ける制度に移行することになっている。

 

貸してくれるならよいではないかという考え方もあろうが、そうも言っていられない危機的状況にある。法曹養成制度の変更は、給費制から貸与制というだけでなく、多岐にわたるものであるが、その一つに法科大学院制度がある。2年から3年の間、法科大学院で学ばないと司法試験の受験資格がないということになったのだ。

 

学ぶとなると当然学費がかかる。日弁連の調査では、今の司法修習生には、奨学金などで平均320万円、最高で1200万円の借金があった。このような状態で貸与制ともなれば、さらに300万円以上の借金が加算される。法曹になった段階で既に「多重債務者」となっている。笑えない話である。

 

任官当初の給料があまり高くない裁判官、検察官はもちろんのこと、弁護士になった人間も借金の返済に頭を悩ませることになる。詳しくは述べないが、やみくもに合格者数を増やした結果、弁護士の数が膨れあがって、就職もままならず、ろくに収入のない弁護士も出てきているのだ。

 

このような状況では法曹を目指そうなどというのは、とてつもないリスクを抱え込むことになる。まともに考えれば法曹になろうなどと夢にも思わないであろう。現に法科大学院の志望者は激減している。制度変更の目標の一つであった多様な人材の登用など吹き飛んでいる。

 

これを国民の側から見れば、借金の返済に追われている裁判官や検察官に裁判をしてもらうということになるが、それがよいのかどうか。また、借金の返済のために金もうけに走らざるを得ない弁護士が出ないとも限らない。金の心配ばかりをしていて、よい仕事はできない。最終的に困るのは、国民ではないか。

 

私も脱サラで弁護士になったが、当時法科大学院制度や貸与制だったら、今でも会社勤めをしているのは間違いない。司法修習生時代は給料ももらったが、弁護士になってから採算の取れない仕事もだいぶやった。弁護士の仕事とはそういうものだという思いもあるが、なりたてのころは国民から給料をもらったからという意識もあった。現に司法研修所でそういう教育もされた。

 

一連の制度変更は、誰もが不幸になるようなものであり、根本から見直す必要があると思うが、緊急の課題は目前の貸与制への移行を中止することである。この件については本紙の読者にもぜひご理解をいただきたいと思う。
(県弁護士会副会長)